午前1時の怪

2003年7月1日
午前1時を回ったころ、私は寝付かれず、本を読んでいた。

題名は「日本戦後外交史」。
題名がすべてを物語るような、しかし内容の濃い、授業のテキストである。

この場合、もうすぐテストだから夜更かしをしてまで勉強していたと言えば勤勉な大学生らしいが、言うまでもなく、私がこの本に対して求めていたのは知識ではなく、睡眠誘発の機能だった。

ふと気付くと、なにやら話し声がする。
風呂上りで暑かったため開け放していた窓の外から聞こえるようだ。

BGMのミスチルのCDを一時停止し、耳をすます。

ぼそぼそと声がする。男女のようだ。
そしてなにやら、女の方は泣いているもようだ。

声は、私の部屋の窓が面している道路の方から聞こえる。

私の家の前は交差点になっていてすこし歩道が広くなっているので、彼らはどうやらそこに腰掛けて話している模様だ。

付け加えていうなら、そこは付近の家のゴミ収集場である。

痴話げんかか・・・と思ったが、客観的に見て閑静な住宅街である我が家のまわりで、夜中1時に痴話げんかをするような人がいるだろうか。

近所の人ならすぐ近くにある公園に行くだろうし、少なくともわざわざゴミ収集場で痴話げんかはしないだろう。

しかしわざわざ遠くからきて、住宅地の奥に入り込むというのも、不自然だ。

よりよく聞いてみると、はじめはぼそぼそとはなしていた男女だが、すこしずつヒートアップしてきたのか、男の方の声がどんどん大きくなってきた。

「でもそれは親同士の問題やろ、俺らにはどうしようもないやん・・・」
声は幼い。高校生のようだ。

女の子は泣いていて、何を言っているのかよくわからん。

気にはなったが、読書に戻ろうとした矢先、せっかく眠気に誘われていた私を、いっきに目覚めさせる一言が聞こえた。

「でもな、なつこは悪くないやろ・・・」

なつこ!?
なつこて言うたか、君!?

HNを見てもらうと容易にわかることかもしれないが、なにを隠そう、私の名前はなつこである。
夏に生まれたからなつこ、という安直極まりない名前である。

珍しい名前ではないようにも思えるが、実際、今の時代、○○子という名前は珍しい。
同じ名前の人に会うことは、実はそうそうない。

このとき、夜中だったということもあり、私は一瞬混乱した。

(なつこ・・・?わたし?でも私、ここにいるよなぁ?)

混乱の原因は発音にもある。

発音を文字化することは非常に難しいが、その彼は、一種独特の発音で「なつこ」を呼んでいた。

そしてその呼び方は、私の彼氏が私を呼ぶときと、同じ発音だったのだ。

ちなみにその発音は、「蛍の墓」でお兄ちゃんが
「せつこォ」
と呼ぶときの、せつこの発音と同じである。

私は混乱した。

話をよく聞くと、「なつこ」は家出した友達をかくまい、相手の親に怒られているらしい。

(私そんな家出するような不良の友達いたかな?)
(いやいや・・・んなわけないよな。あれ私ちゃうよな)

せめて話している人の姿が見えれば、そこにいるのは自分ではないということがはっきりするのだが、外は真っ暗で、あいにくメガネも洗面所に忘れてきたため、姿が全く見えない。

ふしぎな感覚はいや増すばかりである。

男の子の声は、どんどん大きくなって、夜中1時だというのに、普通の声でしゃべっている。

外にいるのは紛れもなく、私ではないのだが、近所の人は私だと思うかもしれないと思うと、ひやひやともする。

そこで私は、網戸をあけたり閉めたりして音を立てることで、声のでかさに気付くよう、アピールした。

その甲斐あって、彼らはやがて話しながら去っていった。

今あったことを彼氏に電話すべきかどうか数瞬迷ったが、夜中の1時過ぎにそんな報告の電話をされてうれしい人はいないだろうと判断し、夢ではないが夢のような話だということで、いつも夢の内容を書き留めている「夢日記」に、その出来事を書いて、眠った。

次の朝、母や姉に「話し声聞いた?」と尋ねたが、二人とも知らないと答えた。

本当に、夢のような出来事だった。

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